全身性エリテマトーデス(SLE)と妊娠|使用できる薬・避けるべき薬について

全身性エリテマトーデス(SLE)の患者さんにとって、妊娠・出産は大切なライフイベントの一つです。かつては「妊娠は難しい」と考えられていましたが、現在では適切な治療と管理を行うことで、安全に妊娠・出産を迎えることが可能になっています

SLEの方が妊娠を考える際には、病気の状態を安定させることが最も重要です。そのため、妊娠前に主治医と相談し、使用できる薬に切り替えながら準備を進めることが推奨されます。

ここでは、SLEの患者さんが妊娠前・妊娠中・授乳中に使用できる薬剤・避けるべき薬剤について詳しく説明します。


📌 妊娠中に使用できる薬・避けるべき薬の一覧

分類 使用できる薬 使用を避けた方がよい薬 使用できない薬
抗リウマチ薬(DMARDs) ・ヒドロキシクロロキン(HCQ)(妊娠中も安全)

・タクロリムス アザチオプリン(イムラン アザニン)

 シクロスポリン

(病状がコントロールできないときに慎重投与)

・ミコフェノール酸モフェチル(MMF)(催奇形性があるため、妊娠6週間前に休薬が必要)
・メトトレキサート(MTX)(催奇形性があり、妊娠3か月以上前に中止が必要)
生物学的製剤 ・ベリムマブ(BEL)(慎重に使用する場合もあり) ・TNF阻害薬(エタネルセプト、セルトリズマブなど)(妊娠初期=20週までは安全性が高い) ・リツキシマブ(RTX)、アバタセプト(ABA)、トシリズマブ(TCZ)など(胎児への影響があるため中止推奨)
NSAIDs(非ステロイド抗炎症薬) ・アセトアミノフェン(痛み止めとして最も安全) ・イブプロフェン、ロキソプロフェン(妊娠初期・中期は使用可だが、後期は避ける) ・NSAIDs全般(妊娠後期)(動脈管早期閉鎖のリスク)
ステロイド ・プレドニゾロン(低用量なら可) ・高用量のプレドニゾロン(妊娠高血圧のリスクがあるため、慎重に使用) ・デキサメタゾン、ベタメタゾン(胎児への影響を考慮し、基本的に使用しない)
降圧薬 ・メチルドパ、ラベタロール(妊娠中も安全) ・カルシウム拮抗薬(ニフェジピンなど)(必要時には使用可能) ・ARB/ACE阻害薬(ロサルタン、エナラプリルなど)(胎児への影響が強いため中止が必要)

🔹 妊娠前に知っておきたいこと

💡 妊娠前に薬を調整しましょう

  • ミコフェノール酸モフェチル(MMF)は、妊娠6週間前までに中止が必要です。
  • メトトレキサート(MTX)は妊娠3か月以上前に中止する必要があります。
  • ARBやACE阻害薬(降圧薬)は胎児への影響があるため、妊娠前に別の降圧薬へ変更が必要です。
  • 病気の活動性が低い状態(寛解状態)で妊娠を迎えることが理想です。

🔹 抗リン脂質抗体症候群について

SLEの患者さんが流産を繰り返す場合、抗リン脂質抗体症候群の可能性があります

🔸 抗リン脂質抗体症候群とは?

  • SLEに合併しやすい疾患で、体の血管に血栓とよばれる血の塊が非常にできやすくなる病気です。
  • 胎児を栄養する血管に血栓ができると流産を引き起こしたりします。

🔸 検査と対策

  • 抗リン脂質抗体が体にあるか調べることが診断につながります。
  • 必要に応じて、血栓予防のために血液をさらさらにするアスピリンやヘパリンなどを投与することで妊娠成立を助けることができます。

🔹新生児ループスについて

SLEの患者さんが妊娠した場合、赤ちゃんに「新生児ループス」がみられることがあります

抗SS-A抗体陽性の妊娠の1~2%にみられ、出生直後から生後3か月頃までに発症します

🔸 新生児ループスとは?

  • 母体の抗SS-A抗体(Ro抗体)が胎児に移行することで、一時的に皮膚症状や血液異常がみられる病気です。
  • ほとんどの場合、生後6か月以内に自然に回復します。
  • ただし、まれに心臓の異常(先天性心ブロック)を引き起こすことがあります。

🔸 対策

  • 妊娠中に定期的に胎児心エコー検査を受けることが重要です。
  • 必要に応じて、母体にステロイドや免疫抑制剤を使用することがあります。明らかな予防効果が証明されている薬剤はありませんが、ヒドロキシクロロキンは新生児ループスを起こす可能性を減らすかもしれないとされています。

🔹 授乳中に使用できる薬

  • 安全に使用できるもの:プレドニゾロン(少量)、ヒドロキシクロロキン(HCQ)、タクロリムス アザチオプリン(イムラン アザニン) シクロスポリン、TNF阻害薬
  • 慎重に使用するもの:NSAIDs(短期間であれば可)
  • 授乳中に避けるべきもの:ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、メトトレキサート(MTX)、リツキシマブ(RTX)

授乳を希望される方は、事前に主治医と相談し、安全な薬剤を選択することが大切です


🔹まとめ

SLEの患者さんも、適切な治療を行うことで妊娠・出産が可能です。
妊娠前に主治医と相談し、使用できる薬に切り替えることが重要です。
ミコフェノール酸モフェチルは妊娠6週間前に中止、ARB/ACE阻害薬も妊娠前に変更が必要です。
✔ 抗リン脂質抗体症候群のリスクがあるため事前の血液検査も大切です。
新生児ループスのリスクがあるため、妊娠中の定期検査が大切です。
授乳中に使用できる薬もありますが、一部の薬は注意が必要です。